日本半導体 栄枯盛衰

半導体は簡単に云うと「電子回路を小さく小さく縮小し、写真の焼き付けの様にして小さなプレート上にそれを固定」するイメージです(小さいのでゴミが付くと導通してしまい回路が壊れてしまいます)。

(半導体は)とても便利なものだったので、1980年代のころは、各電機企業がその生産競争に邁進していました。電子回路を小さく小さくする競争です。しかし、皮肉なことに生産設備は大規模化し、とんでもない投資金額が必要になっていきます。金額があまりに巨大化し、投資に耐えられるのはトップ企業数社、残りはふるい落とされるようになりました。

また、ちょうどIntelの創業者の一人、ゴードン・ムーアが提唱した「ムーアの法則」が具現化されつつある時代の始まりでもありました。

「ムーアの法則」は皆さんご存じでしょう。「微細化の進展によりその性能が2年で2倍になり、メモリ容量は4年で4倍になる」という法則です。自然科学の法則でも何でもありませんが、80年代、90年代は半導体業界全体がこんな感じで、微細化の技術進歩が予定調和的に20~30年ほど続きました。

しかしながら微細化もある程度までくると、そろそろ限界では、と騒がれだすようになります。技術進歩のスピードが遅くなりつつある一方で、開発コスト・製造コストは幾何級数的に上昇、とんでもない投資金額が必要になっていきました。

超が3つ付くぐらいの微細化が進み、回路パターンを焼き付けるための露光装置やマスクを作るための技術が超高難度となり、且つそれらの価格が超高騰しました。なにせ3μmルールから3nmルールへと進化したのです。長さにして10-3倍、面積にして10-6(100万分の1)倍になりました。

それを製造する生産設備は高精度・超微細・超均質が求められ、大型化することで設備1台当たりの値段が超高額化し、金型にあたるマスクも超高額化で、巨額の投資金額が必要になっていきました。製造ラインやマスク金型への投資額があまりに増大し、超高性能で価格転嫁できる品種に絞って大量生産をする最先端工場しか稼働できなくなりました(先ほどから超、超、超~と超の連呼ですがご勘弁くださいませ)。

最先端工場Fab(Fabrication Facility)を一つ作るのに2~3兆円が必要、と言われています。あのIntelでさえ、自前の工場で他社のチップを製造しないと成り立たない状況です。競争力のある最先端工場のミニマム生産能力を、Intel製品だけでは埋められないのです。

私の現役時代であった日の丸半導体全盛時は、日本の6社ほどが最先端半導体を製造していました。先端工場1ライン千億円、マスクセット数千万円といったところですが、今では1~2桁以上は金額が上がってしまっているのでしょう。当時、現場にいてムーアの法則を肌で感じながらも、その投資額の大きさに「これからどうなるのだろう?経営層はどう考えているのだろう?」と将来に対して漠とした不安を感じるようになりました。

そうこうするうちに、矢張りというべきでしょうが、最低投資金額があまりに上昇し、トップ企業数社のみが投資に耐えられましたが、残りはふるい落とされ始めていきました(嗚呼~ウチの会社はどうなるんだろう?上層部はどう考えているのだろう?)。

この流れの果てにファウンドリーが登場するのですが、ファウンドリーが登場するまでの背景には、通奏低音のようにムーアの法則が響くのをお忘れなきように。

ところで、ゴードン・ムーア氏が2023年3月24日に亡くなったそうです。享年94才でした(Intel社創業者の一人といったことはあまり知られていませんが…)。